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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第9章 RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦
直輝の顔が歪んだ。
「俺がもっと早くに気づいていれば、あいつを不幸にすることもなかったし、お前にも辛い想いをさせることもなかった」
「―直輝」
有喜菜はかける言葉もなく、ただ黙り込んで直輝を見つめた。
「俺はつくづく馬鹿な男だよ。二十四年前に、その事実に気づいていれば、ここまで糸がもつれることはなかったのに。考えてみれば、紗英子も含めて俺たちは出発点を間違えてしまったんだろうな」
「間違った道を歩いて、今、やっとその誤りに気づいたっていうこと?」
「だろうな。随分と長い時間がかかったけど、今からでも、俺たち三人はやり直さなきゃならない。このままの状態を続けても、きっと俺たちだけじゃなく、紗英子ももっと不幸になる」
有喜菜はハッとした。直輝の口にした〝俺たち〟という言葉の中にはもう、紗英子は含まれていない。今の彼にとって〝俺たち〟というのは、他でもない有喜菜と直輝なのだった。
「俺がもっと早くに気づいていれば、あいつを不幸にすることもなかったし、お前にも辛い想いをさせることもなかった」
「―直輝」
有喜菜はかける言葉もなく、ただ黙り込んで直輝を見つめた。
「俺はつくづく馬鹿な男だよ。二十四年前に、その事実に気づいていれば、ここまで糸がもつれることはなかったのに。考えてみれば、紗英子も含めて俺たちは出発点を間違えてしまったんだろうな」
「間違った道を歩いて、今、やっとその誤りに気づいたっていうこと?」
「だろうな。随分と長い時間がかかったけど、今からでも、俺たち三人はやり直さなきゃならない。このままの状態を続けても、きっと俺たちだけじゃなく、紗英子ももっと不幸になる」
有喜菜はハッとした。直輝の口にした〝俺たち〟という言葉の中にはもう、紗英子は含まれていない。今の彼にとって〝俺たち〟というのは、他でもない有喜菜と直輝なのだった。