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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
 直輝はそこで今度は大息をついた。
「だから、お前が夢中になって必死になればなるほど、俺の心は醒めたし、心の中の疑問も大きくなった。医者に指示された夜だけ、ただ義務のようにセックスするなんて、それじゃ、動物園の飼育動物か繁殖用の馬と同じだ。俺は何も種馬になりたくて、お前と結婚したわけじゃないって大声で叫びたかった」
 でも、お前の子どもを欲しいっていう気持ちも理解はできたから、黙ってたんだ。必死なお前をうっとうしいと思いながらも、可哀想で口にできなかった。
 しまいの呟きは、紗英子をこれ以上はないというくらいに打ちのめした。
 うっとうしいと思いながらも、可哀想―。
 そうなのか、自分はつまり、直輝に疎まれる一方で憐れまれてさえいたというのか。
 もう、何もかもおしまいだという気がしてならなかった。聞かなければ良かったのかもしれない。だが、それこそ夫婦二人だけで狭いマンションに暮らしているのだ。日中の殆どの時間、もちろん直輝は出勤していて留守ではあるけれど、会社は完全週休二日制で土、日曜は自宅にいる。
 いずれ、お互いの考えていることは遅かれ早かれ表に出ただろう。
 紗英子はこれまで大いなる勘違いをしていたらしい。少なくとも夫が治療に対して肯定的ではないにせよ、治療を強く望む紗英子自身までをも否定しているとは考えたこともなかったのだ。
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