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Memory of Night
第8章 花火
――喩えるならば、それはまるで一枚の絵画か映画のワンシーンのようだった。
晃は魂を抜かれたような気分で川にたたずむ宵を見つめていた。
月光と蛍の光の中で淡く浮かび上がる様は、この世のものとは思えないほど美しい。
ずっと、眺めていたくなるほどに。
思えば宵に対しては、完璧に一目惚れだった。それ以上でも以下でもない。
高校の入学式のあの日。
桜の花びらが舞う校庭の隅で、宵を見つけた。
目新しい校舎や校庭に興味を示すでもなく、これから始まる学園生活に胸を踊らせるでもなく。ただ、桜を眺めていた。
それだけのしぐさなのに、晃は宵から目が離せなかった。
そのどこか気だるげな横顔を、綺麗だと思った。
綺麗だけれど表情に乏しくて、まるで人形のようだと思った。
ずっと、自分の手元に置いて眺めていたい。眺めているだけで満足だった。
あの時の気持ちは、多分恋ではない。どちらかといえば、お気に入りの家具や調度品を見つけた時の気持ちによく似ている気がした。