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Memory of Night
第13章 吉報

 宵の言葉に、志穂は微かに微笑み、ほっと胸をなで下ろした。
 それから宵の服を引っ張った。
 松葉杖を片方ベッドに立てかけ、片手をベッドについて志穂に目線を合わせるようにかがみこんだ。
 途端に腰の辺りをぎゅっと抱きしめられる。
 骨の形が浮き彫りになりそうなほどに細い、志穂の腕。
 その腕に応えるには体勢が悪すぎるから、もう片方の松葉杖もベッドの端に立てかけた。
 身軽になった両手で点滴の管に注意しながら志穂の体を抱きしめ返す。

「ほっせえなぁ。ギスギスじゃん」

 本当は、志穂に会って言いたいこと、言わななきゃならないことは山ほどあったはずだった。
 だけど実際に会って抱き心地の悪い体を抱きしめていても、言葉は何一つ浮かんでこない。

「手術、成功して良かったな。……おめでとう」

 だからたった一言。ありきたりではあるけれど。
 それでも志穂には、十二分に伝わったらしい。
 宵に抱きつく腕の力が強まる。
 宵の耳に唇を近づけ、気管から、音みたいな小さな声が漏れる。

 ――ありがとう。

 宵もそれで十分だった。
 耳に届くその声に、自然と目元をやわらげていた。
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