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Complex
第5章 居所
とりあえずトイレに行きたいと告げて綾瀬の元を離れた。
洗面台の鏡に映る顔はむくんでいて、重たげに重なるまぶたはほんのりと赤い。
こんな顔、見せたくない。
今さらだけれども、友香は冷たい水で顔を流した。


リビングに戻り、綾瀬の座るソファーに並んで座る。
やっぱり、このソファーは沈みすぎる。
予期していたよりもはるかに低い重心のため、思っていたよりも大きく反動しながら腰かけた。

昼のワイドショーを見ながら2人で親子丼を食べるなんて。
友香は心の中で呟く。

申し訳ないから昼はご馳走したかったのに、綾瀬はそれならばと友香に手料理を期待した。
けれども冷蔵庫の中には卵と鶏肉くらいしかなくて。
結局簡単に済ませてしまった。

「すごい、卵とろとろ。料理できる女の子はいいねー」

綾瀬は笑みを浮かべながらレンゲを運んでいる。
親子丼のレシピはネットで検索したことは言わないでおいた。
きっと、綾瀬だって自分で店を持つくらいなのだから料理はできるだろう。
キッチンに並んだ数々の調味料や、友香の家にはない調理器具たちは雄弁にそれを物語っていた。

「綾瀬さん、ご飯食べに行って、もしも料理に髪の毛入ってたらどうします?」

「んん?なに急に」

「いえ、なんとなく、気になって」

「髪の毛かぁ。まぁ、店にもよるけど店員さん呼ぶかな」

「呼んでどうするの?」

「え?どうするなぁ。うーん。これ、どうします?って回りに聞こえないように言うんじゃない?」

質問の意味がわからずに答えてくれる綾瀬は、やっぱり優しい人だ。

「良かった」

なにが?と問う視線には答えずに友香は笑いながらレンゲを運んだ。

今までたくさんの男性と知り合ってきた。
食事だけじゃない、少しの買い物やお出かけでちょっとしたトラブルなんてどこにでも転がっている。
けれど、それを大げさに騒ぐ人もいれば騒がない人もいる。
最悪なのは大声で小さなミスをまるでしてやってりのように大声で騒ぎ出す人だ。
一緒にいる友香は、その度にいたたまれない気分になった。
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