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ガラスの靴がはけなくても
第5章 赤のしるし



「そ、そういう所がムカつくんです……!」



目の前にある大きな身体を押し返す。
それでも上げられない顔。
今、自分がどんな顔をしてるかなんて想像もしたくない。


少し離れた部長は相変わらず、私を見下ろしたままだと思う。
何も言わない部長が怖い。


なんてこと言ってるんだろって、次の瞬間には後悔したけれど動き出した口は止まらないまま。
動揺すると考えるよりも先に口が動いてしまうのは、私の悪い癖だと分かってはいるけどどうしようもない。



「勝手に身体には触れるくせに、優しくされるからどうしたらいいのか分かりません。私、まだ……。まだ、部長の気持ちに応えられないのに!」



気づいたら、どんどん部長のペースに飲まれてる。
それに苛立ちや焦りを感じるけれど、一番は戸惑い。
こんな流される様に部長に惹かれていっていいのか分からないのに、簡単に私の気持ちを揺らす部長がムカつく。




「気付いたら部長のことばかり……っ」




……そこまで言っておいて、やっぱり言葉を間違えたと気付いた。



顔に熱が集まってくるのが分かる。


ここからの私の動きは早かった。
目の前にいる部長には一切脇目も振らずに、自分のデスクまで行くと鞄を掴み、足早にその場を後にする。


乱暴に閉めたオフィスの扉の向こうからは笑い声が聞こえてきた。



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