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ガラスの靴がはけなくても
第3章 理性と本能
鼻腔を擽るシトラスは甘くも苦い。
爽やかに涼しく思えるその香りは、今の私にとっては官能的でしかない。
甘く包むように、最後には苦さを残して眩ませる。
まだ乾ききっていない冷たい髪が頬や首筋に触れて、ピクリと身体を揺らす私に、笑い声を漏らすとそのまま耳へと口付けた。
「あっ……」
自然と漏れた声にぎゅっと目を瞑り、口を手で塞ぐ。
ゆっくりと耳の縁に舌を這わせ、耳朶に噛み付かれ……ぴちゃりと響く水音に身体は更に跳ねた。
やだ…っ。
こんなのダメなのに。
部長の腕の中で身を捩る私は否定の色すら出せずにいて。
部長がそんな私に気付かない訳がなく――
「酔ってるせいにすればいい。でも、本当に嫌なら突き放せ」
その言葉にぐらりと世界が歪んだ。