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ガラスの靴がはけなくても
第4章 揺れる
「深く考え過ぎ」
その言葉と同時に立ち上がった香織さんは慣れた足取りでキッチンに向かって、換気扇を回し台所の棚から普段は使われない灰皿を出す。
鞄からメンソールの煙草を取り出すと振り返りそれを私に向けた。
「吸う?」
私がいいえと手を振ると、香織さんはキッチンに戻り火を点け煙を深く吸い込んだ。
「男のために煙草もやめて、服装も化粧も変えて。健気だね莉乃は。でももったいない」
部屋に漂う紫煙のように私の心にも靄(もや)がかかって淀んでいるけれど、
「その健気さを分かってくれる人に惹かれたっていいんじゃない?」
少しずつ空気が換気されていくようにその靄もなくなっていくんだと思う。
偽りの自分じゃなくてありのままの自分で恋をしたい。