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ガラスの靴がはけなくても
第5章 赤のしるし
途中から私以外が立てる物音が一切聞こえてこなかったのは、どうやら集中していたためではなかったらしい。
そっと近付くと、腕を枕にして眠る部長。
疲れてたんだろうな。
それなのに私に付き合って、残ってくれて。
すごく申し訳ない気持ちになった。
私の終電まで後一時間くらいあるから、それまで寝かせておいたほうがいいかな?
それより起こして早く帰ってもらうべき?
あれこれ考えた挙げ句、結局私は自分のひざ掛けをデスクの引き出しから取りだし部長の肩へとかけた。
だって、なんていうか。
もう少し寝顔を見ていたいって思った。
伏せた目には長い睫毛がいつもより際立つ。
どう手入れしているのか聞きたいくらいの綺麗な肌には、セットが崩れた黒髪がかかっている。
寝顔ですら完璧な部長。
だけど、ほんの少しだけいつもより幼く見える。