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面影
第3章 出会い
飲みに行く予定ではなかったので、
邪魔な社用車を返すために
会社へと車を走らせる。
『…!おい!旭!車止めろ!』
窓の外の流れる風景を見ていたはずの
棗さんがいきなり声を荒げる。
慌てて路肩に車を停めると、
いつもの冷静な棗さんからは
想像つなかない焦った顔で辺りを見回す。
『…ま…か……。』
そして決まって、何かをボソッと
呟いて頭を抱えるんだ。
珍しいことではないんだけど、
夏前に差し掛かると、回数が多くなる。
その様子は、必死にいなくなった
誰かを探してるみたいで。
棗さんは、すごく哀しい目をしてる。
『…旭。ごめん。』
『気にしないでくださいよ。』
『ん。ちょっと寝るわ。』
『はい。』
また車を走らせていると、
スースーと隣から寝息が聞こえてくる。
『棗さん。いつか…
俺も棗さんを助けたいっス。』
思わず出た、自分の本音は
ふわぁーっと空間に溶けていった。
その時、
会社の目の前の信号を待つ、
女性の存在に二人とも
まだ気づかないでいた ーーー。