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私は犬
第32章 我慢の限界*
オペラが無理なら、久しぶりにチーズ料理が食べたい。ラクレットを摘まみながら、甘いヌテラを舐めて、スイスのワインを飲みたい…。

「さっきイザークさんが来て、あんたに食べさせてやってくれって、チーズとワイン置いてったわよ。夏だけどラクレットにしましょう。って、厨房でアルメリコが張り切ってたわ。」

やったー!ラクレットが食べられるっ。真夏に鍋を食べるようなものだけど、季節感なんてどうでもいいわ。

「アルメリコは西語。イザークさんは仏語で話すし。ローザンヌは仏語、チューリッヒに行ったら独語…。頭おかしくなっちゃう。通訳居なかったら生きてけないわよっ…。」

うんうん。でも、公用語が4つあるスイスではそれが普通なの。ロマンシュ語で話す人が身近に居ないだけ、まだマシだと思ってね。

「アルメリコはイタリア系みたいだけど、スイス料理なんて作れんの?」

「それは大丈夫。彼のご両親はスペインのバスク地方の出身なだけでイタリア人じゃないし。彼もスイスに住んで長いから、こちらのお料理も慣れてるの。」

待ちきれなくて厨房を覗きに行くと、鍋の中にくたくたに煮込まれた細長い乾燥インゲンと、ザワークラウト、ホロホロになった塊肉が入っていた。

これは…っ!!
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