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tsu-mu-gi-uta【紡ぎ詩】
第130章 桜幻想(エッセイ)
今も忘れられない光景がある。あれは京都の女子大の学生だった時代、学生寮にいたときだ。寮の部屋は二階で、ささやかな庭には一本の桜樹が植わっていた。丁度、部屋の窓際から満開の桜が間近に臨める。窓際で本を読みながら、時折、顔を上げては向こうの桜を眺めるのが日課になっていた。
土曜日の午後、四人部屋には私の他、誰もいない。私は好きなだけ、一人の時間を堪能できる。満開の桜が風もないのに、はらはらと散り零れ、時に薄紅色の花片が膝の上で広げた本の上にそっと舞い降りる。人差し指でそっと花びらをつまんで窓から差す春の光にかざせば、それは光を弾いて淡い桜貝のように美しかった。
土曜日の午後、四人部屋には私の他、誰もいない。私は好きなだけ、一人の時間を堪能できる。満開の桜が風もないのに、はらはらと散り零れ、時に薄紅色の花片が膝の上で広げた本の上にそっと舞い降りる。人差し指でそっと花びらをつまんで窓から差す春の光にかざせば、それは光を弾いて淡い桜貝のように美しかった。