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弓月 舞 after story 集
第7章 君の視線が絡み付く
今日はクーラーが壊れているらしかった。
今日にかぎって…と思わずにはいられない灼熱の真っ昼間。
今にも空気が爆発しそうなくらい暑いのに、爆発する素振りを見せずにじっとりと床を這う重たい空気。
せめてと思い窓を開けているけれど、外からなだれ込むセミの声は容赦なく、かえって暑さが増した気もする。
そんな部屋で私は家庭教師のアルバイトをしていた。
「……ねぇ、ユウキくん」
丸いローテーブルの上にノートを広げ、赤ペンを手に採点中の私は、ついに耐えられなくなって教え子の名を呼んだ。
「……なに?センセ」
「ユウキくんの視線が痒い(カユイ)」
私は丸付けの手を止めず、ノートを見たまま隣の彼にそう告げた。
彼のほうを見ているわけじゃない。
けれど彼から私に向けられるこの視線だけは、不思議と感じ取れてしまうのだ。
それはどれだけ逃げたくても逃げられない夏の暑さのように、無視しようにも無視できない視線だった。