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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第5章 凍れる月~生涯の想い人~
 自分が死んだら、父も兄もどれだけ哀しむだろう。血の繋がりよりも大切な、強い絆があると身を持って教えてくれた人たちだった。
 お屋敷に上がってひと月。奉公前に貰った手付け金はすべて兄に渡した。兄は梨花が予め頼んでおいたとおり、薬屋で卒中に効くという高価な薬を求めて父に呑ませている。
 その効果が現れたのかどうか、父の病状は一進一退を繰り返しながらも、ほんの少しではあるが良い兆候を見せているらしい。麻痺のために全く動かなかった手脚が僅かだが動かせるようになっている―と、兄からの手紙にはその回復ぶりが綿々と綴られていた。
 見事な手蹟で書かれた控えめで押さえた文章の中に、兄の歓びが滲み出ていて、読んでるいる梨花まで嬉しくなった。その何枚もの手紙を梨花は幾度も読み直した。
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