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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第6章 兄の心
 涙が堰を切ったように溢れ出て、止まらない。優しい南斗を困らせたくないからと泣きき止もうと努力しても、涙は止まらなかった。
 南斗は後を走って追いかけてきた梨花を眼に付いた靴屋の軒先に連れていった。丁度、客もおらず、そのときは人通りもなかったゆえ、打ってつけの話し場所になった。
 小さな店の中は、壁にぐるりと作り付けの棚があって、一段ごとに様々な靴が飾られている。鮮やかな牡丹色の絹の刺繍靴もあったが、今の梨花にはいっかな眼に入らなかった。
「海棠、頼むから、もう泣くのは止めてくれ」
「でも―」
 梨花は潤んだ瞳で南斗を見上げる。
「可哀想な海棠。私がいけなかったのだ。今日は、そなたも実家に帰っているし、兄上に私たちのことを話して認めて貰う格好の機会だと思ったのだが―、どうも、私一人が勇み足だったようだね」
 南斗の端整な顔に微苦笑が浮かんでいた。
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