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第7章 哀しい現実

　梨花は乳母に連れられて逃げ出したものの、屋敷を出る前に―或いは出てから、賊に見つかってしまったのではないか。乳母だけが見つかり、梨花はしばらく一人で逃げていたのか―この場合、乳母が自分を犠牲にして梨花を逃がしてやったということになる。それとも、その場で乳母と共に捕まったのかどうかは知りようもないが、結果として乳母は殺され、梨花は男たちに連れ去られた。
　恐らく、男たちから逃れるために、やむなく男たちを殺したに相違ない。
　六歳の子どもがどうやって大の屈強な男を殺したのかまでは判らない。しかし、梨花は稚くても、利発な子だった。七つ年上の彼が梨花を見て、怖ろしいほど頭が切れると思ったことは一度や二度ではなかった。何らかの手を用いたのは想像に難くない。
　あの無邪気な妹が小さな手で人を殺し、白い手を血に染めたのだ。そこまでしなければ、哀れな妹は生きてゆけなかった。