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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第2章 転生
 でも、絶対に眼を開けては駄目。
 梨花は自分に言い聞かせる。眼を開けたら、けして見たくない、知りたくはない現実を知ることになる。
 だから、絶対に知らんぷりをするのだ。
 しかし、その頑なな想いも唐突に破られた。
「おい、起きてるんだろ。寝たふりをしても、瞼がひくついてるぜ」
 その口調は上流両班家の子息として育てられた兄とは似ても似つかなかった。恐らく下町の者が使う言葉遣いであったろう。
 なのに、不思議と兄を彷彿とさせる懐かしさがある声音だった―。
 思わず眼を開いてしまった梨花の眼にまず映じたのは、一人の少年だった。七つ違いの兄よりは少し年下かと思われる年頃だ。
「やっぱり、気がついてたんだな」
 丸顔の少年は十歳くらいだろうか、言葉遣いは乱暴だけれど、その顔にはホッとしたような安堵の表情が紛れもなく浮かんでいる。
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