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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第2章 転生
お前がかつて生きていた世界も、名前も、何もかも棄てて、新しいこの世界で生きていけば良い。
彼はそう言った。
「だから、俺はお前の本当の名前を訊かない」
少年はきっぱりと言い、しばらく梨花の顔を見つめていたかと思うと、手を打った。
「お前の名前は海棠(ヘダン)だ」
「海棠?」
思わず訊ね返してしまった梨花の瞳を少年は少し眩しげに見返した。
「お前が倒れていた橋の袂に、海棠が咲いていた。海棠は俺の好きな花でもあるんだ。倒れているお前があまりに綺麗だったから―、最初は、お前が花の精ではないかと思ってしまったんだよ」
「海棠―」
梨花の脳裡にまたもあの夜の光景が浮かび上がる。地面を血の色に染めて倒れていたスンチョン、その傍らで薄紅色の可憐な花をつけていた海棠。薄紅の花にも、夜目にもはっきりと判るほど鮮やかな血が飛び散っていた。
彼はそう言った。
「だから、俺はお前の本当の名前を訊かない」
少年はきっぱりと言い、しばらく梨花の顔を見つめていたかと思うと、手を打った。
「お前の名前は海棠(ヘダン)だ」
「海棠?」
思わず訊ね返してしまった梨花の瞳を少年は少し眩しげに見返した。
「お前が倒れていた橋の袂に、海棠が咲いていた。海棠は俺の好きな花でもあるんだ。倒れているお前があまりに綺麗だったから―、最初は、お前が花の精ではないかと思ってしまったんだよ」
「海棠―」
梨花の脳裡にまたもあの夜の光景が浮かび上がる。地面を血の色に染めて倒れていたスンチョン、その傍らで薄紅色の可憐な花をつけていた海棠。薄紅の花にも、夜目にもはっきりと判るほど鮮やかな血が飛び散っていた。