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雪の華~ Memories~【彼氏いない歴31年の私】
第1章 LessonⅠ 憂鬱な夜には
―ピアノ科を卒業して、プロのピアニストになれるのはほんのひと握り程度だよ。ここは途方もない夢のようなことは諦めて、現実を見た方が良い。君は成績も良いから、教員採用試験にも合格するだろう。教員になるもよし、ずっとピアノ関係の仕事をしたいのなら、ピアノ教室を開くといった道もある。
 教授は何も輝を貶めようとしたわけではなかった。むしろ、老婆心で―現実を見てきた先達として、適切なアドバイスをしたにすぎない。けれど、輝の心はあの言葉で、絶望の色に染まった。
 甘いといえば、甘いのかもしれない。教授の言うことは正しい。ピアノ科の卒業生でも、一般企業に就職する者が殆どのご時世である。ましてや、プロのピアニストとして活躍しているのは、本当に稀だといって良い。
 だから、素直に忠告に従うべきだったのだろう。でも、輝は極端な選択をした。ピアノそのものをきっぱりと断ったのだ。卒業後はピアノとは一切縁のない今の会社を就職先に選んだ。今、輝がピアノを弾くことはまったくない。
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