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第8章 波乱と別れ

「あ、悠里さん！」
三軒茶屋の店舗に到着すると、店長をはじめ従業員の人達が悠里に駆け寄ってくる。
「皆さん、ご迷惑お掛けしました。」
まだ松葉杖は付いていたものの、何とか仕事に復帰した悠里は、三軒茶屋のオープニング前日の最終確認に同席する為、浅井と田坂と三軒茶屋店に顔を出した。
「悠里はここに座ってて？」
田坂に言われて、用意された椅子に座ると、店舗をゆっくりと見回した。
やっぱり、この家具にして良かった。色合いも、落ち着いていて、ゆっくりとコーヒーを飲んで寛いで貰えそう。
「どうだ？総監督さん？」
浅井が声をかけてくる。
「完璧です。」
「彼氏さんがかなり奮闘してくれたからな？」
「そうなんだ。」
田坂は店の従業員と食器の山と格闘している。
「楽しそうで、良かった。」
「ん？」
「初めて、外回りに一緒に行った時、緊張してカチカチだったから。」
「お前が入院してる間、俺が扱いたからだ。感謝しろよ？」
「ありがとうございます。」
クスクス笑いながら、悠里は田坂を見つめた。
「浅井さん！サボらないで手伝って下さいよ？」
悠里と話している浅井を睨みながら、声をかける。
「お、すまん、すまん。」
浅井は、頭を掻きながら、準備に戻る。

「悠里さん、どうぞ。」
「え…」
店長が悠里の目の前にコーヒーを置いた。
「一番最初は、悠里さんに飲んでもらおうって、みんなで決めてたんです。」
「あ、ありがとう。すごく嬉しい。」
「味、見てください。」
「はい。」
カップを持ち上げ、香りを吸い込む。
「良い香り…」
カップを口に運び、一口飲んだ。
「美味しい…このブレンド、オリジナル？」
「田坂さんのアイデアで、ちょっと豆をブレンドしてみたんです。」
「すごく良いかも。」
「だろ？」
田坂は悠里に向けてVサインをしている。
悠里は、何だか嬉しくて泣けて来た。
「え、悠里、どうしたの？何で泣いてるの？」
「なんか、嬉しいの…」
みんなの優しさが心に沁みた。
「泣く事ないだろ？全く。」
田坂は悠里の前にしゃがむと、優しく手のひらで涙を拭った。
「みんな、悠里が頑張って来たから、この店舗盛り上げたいって思ってるんだ。悠里が引っ張って来たんだよ？」
「そんな…」
そうですよ。と皆も笑顔で悠里を見つめていた。