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さくらホテル2012号室
第5章 それが本音ですね?

「素敵な声をしていますね。授業にも出られたらいいのに」
初めて先生に褒められた時のことは、忘れない。
図書館の視聴覚室を使って行われる、地域の方のためのセミナー。その講師としていらしたのが先生だった。セミナーの内容は図書館の本を使った、読み聞かせや朗読術だ。そこに、地元の劇団の方にお声掛けして、講義をしていただいたのだった。
プロの俳優による、簡単な演技講座の雰囲気となったそのセミナーは特に人気が出て、いつも参加者は抽選となった。先生はその当時、舞台では知らない者のいないくらいの著名人だったが、テレビではまったく姿を見ない俳優だった。
ただ、先生の魅力は口コミで広がり、多くの主婦のファンを作った。
翌年の大河ドラマに印象的な脇役として抜擢されたのは、そんな先生の渋い魅力がやっとテレビに理解されたからなのだ、と職場の芸能通の同僚が言っていた。

