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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第6章       

(ま……まずい……しんどいぞ……)

 1限目の(英国の)歴史は睡魔に襲われながらも、何とか受けていたヴィヴィだったが、

 2限目の数学になると、頭がくらくらしてきた。

 視点も定まらなくなり、テキストの数字が二重に見えるが、手の甲で目を擦って公式を睨み付ける。

(ええと……座標平面上の点(x,y)が次の方程式を満たす。このとき、xのとりうる最大の値を求めよ――か。2x(2)+4xy+3y(2)+4x+5y-4……あれ、+2x(2)+4xy+3y(2)+4x+5y+2x(2)……ていうか、なんでこんなに公式、長いのさ――)
 →→→(2)は二乗と読んで下さい by 作者

 そう突っ込んだ瞬間、ゴツンと大きな音がして、頭に激痛が走った。

「い゛、だい゛……」

 両手でテキストを開いたまま、机におでこをしたたかぶつけたヴィヴィは、突っ伏したまま情けない声を上げる。

 身体を起こしたいのに、何故か力が入らなくて。

 隣でガタガタと椅子を引く音がしたと思うと、ヴィヴィは肩を抱き上げられた。

 誰だろうと重い目蓋を開くと、クリスが心配そうな顔で、妹のおでこに大きな掌を当てていた。

「ケインズ先生。ヴィヴィ熱があるので、保健室に連れて行ってきます」

 いつも言葉少ないクリスが、しっかりとした声で教師にそう発したのと、

 カレンの「私も! 付いて行きます」と、焦った言葉が聞こえた。

「ああ。頼む、気を付けてな」

 担任のその返事に、クラスメートが一斉に喋りだし騒がしくなった。

 そんな中、クリスはひょいとヴィヴィを抱き上げると、カレンが開けたドアを通って廊下へ出て行く。

 発言通り、保健室へと向かうのだろう。

 頭がぼうとして、思考がうまく纏まらない。

 けれど、自分と一緒で「背は高いけれどひょろひょろ」と思っていたクリスの腕の中は、意外や意外、逞しいという事だけは感じられて。

 やはり男と女では、身体の作りが違うのだろう。

 そして発熱し始めたヴィヴィには何よりも、触れているクリスの暖かさが染み入り、

 その事が何故か、途轍もない安心感を与えてくれた。

「ごめん……面どう……」

 面倒かけて――と続けようとしたヴィヴィだったが、

 ホッとしたのか、そのまま眠るように意識を失った。






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