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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第1章
「お兄ちゃん、約束のチュウは?」
「ごろにゃん」という効果音が似合う仕草で、妹は兄に縋り付くと、上目使いで見上げる。
「はぁ……」
匠海はこれ見よがしに大きな溜め息を付くと、ヴィヴィを見下ろし、
困惑の表情のまま、少し屈んで妹の額にキスを落とした。
柔らかな唇の感触を肌に感じ、ヴィヴィはくすぐったそうに、大きな灰色の瞳を細めた。
(うふふ~、気持ちい~)
やがて唇を離した兄に「今度はヴィヴィが、チュウしてあげようか?」とからかおうとした時、
ピピピピピ。
ヴィヴィのポケットに入っていた、スマートフォンが鳴る。
「あ、そうだった」
妹はスマホを取り出すと、兄から少し身体を離し、テーブルからテレビのリモコンを取り上げた。
「あれ、電話じゃないのか?」
不思議そうに聞いてくる兄に、着信音ではなくてアラーム音だと伝え、テレビの電源を入れる。
50インチの画面に映し出されたのは
『ISUジュニアグランプリ ファイナル2016 女子・男子シングル特集』
「あっ」と呟いた匠海の声を背に聞きながら、ヴィヴィはテレビの音声に耳を傾ける。
『先週、フランス・ニースにて行われました、ジュニアグランプリ ファイナル。
なんと、男子・女子シングルとも、日本の選手が金メダルを獲得するという快挙を成し遂げました!
先週の深夜に放送したところ、視聴者の方からの反響がとても大きく、今日はその2人の小さな金メダリストを取り上げます』
女子アナがすらすらと原稿を読み上げると、画面が切り替わり、リンク上のヴィヴィが映し出された。
Jumping Jack の演奏に乗せ、鮮やかなピンクのリボンが付いた黒衣装を纏ったヴィヴィが、
出だしで軽やかにトリプルアクセルを決めた。
その高さと迫力に、観客がわっと歓声を上げる。
『ヴィクトリア篠宮さんは、日本とイギリスのハーフの父と、イギリス人の母を持つクウォーターの13歳。
日本国籍と英国国籍を持ち、日本スケート連盟に所属しています。
長い手足と柔軟性を生かした演技が特徴的ですが、やはりなんと言っても注目すべきはそのジャンプ力――
あの浅田真緒選手以来、公式戦でトリプルアクセルを決めた唯一の女子選手で、浅田二世との呼び声も高い、前途有望な選手です。
そして――』