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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
「はぁ……?」
呼ばれていた方のその顔が、不快さを隠さずに大きく歪んだ。
「お前……バカにしてるの、かぁ……?」
興奮に瞳を震わせるようにして、訊く。それは無理もないことだと、僕も感じた。
僕にしたって、彼女のことを「ねえさん」だなんて思う筈もなくて。ほんの一時「義姉」であったのは事実ではあるけれど、それが破たんした理由に言及するまでもなく、それはそうだと決まっていた。
「オイ! ――答えろよっ!」
彼女の怒りは尚も増大していって、小刻みに震わせているナイフの切っ先が、とても不安定で――それだけに危険。
けれど僕は、それこそを感じたかったのだと思う。この怒りに触れたかったからこそ、あえて『あのように』呼んでいた。
そして彼女は正しく、その内なる傷を――僕の前に、示していた。
そうなんだ。彼女こそ、自分の罪を理解している。だからこそ、僕を『おとうと』だなんて、間違っても感じたくはなかった。
そう思った僕は、ふと思い出す。それはいつか見た、物憂げな横顔。まだ慣れない家でスマホを弄っていた彼女は――