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日比野あるくさんの日記

仇返し
[作成日] 2016-08-06 23:15:33
河原に人が溢れている。
蒸した空気のなか、「お、始まった!」と声があがる。
か細い鳴き声のような音のあと………
轟音と同時に夜空に花が咲く。

わたしは浴衣姿の男を見つめた。

__男は、団扇を傍らの人影に向けはためかせている。

白い光が舞い夜空が明るくなる。

わぁっ…………と歓声が挙がった。
すごーい、おっきいねーと無邪気な少年の声。

私は男を眺めた。

夜空の光が男の顔を照らす。
曇りない笑みを、
隣の女に向けている。

わたしは、大きく息を吐いた。誰にも気づかれないように。

何度も何度も、仕方が無い仕方が無いと繰り返し自分に言い聞かせてきた。
恋愛の終わりは、どちらかが勝手に決定するのだ。
心変わり。儚い夢。うつろいゆく気持ち。
失恋ソングに出てきそうな安っぽい言葉を思い浮かべては自分を落ち着かせた。

だいすきだ………
かわいいね………
きみしかいない………ずっと、いっしょだよ…………

男がわたしに溢した言葉は、泡(あぶく)のように消えてゆく。


バリバリバリ…………
夜空を切り裂く音。
火の粉が絵を描いた。


男の横顔を夜の闇と花火の灯りが交互に照らす。

男の表情は、わたしと逢瀬を重ねていたときと違うのだろうか…。それとも、変わりないのだろうか。
傍らの女からわたしにtellがあったことを、男は知らないだろう。
___あたしたち、もう婚約してるのよ___


離れていった男の心など、
取り戻せるはずがない。
それが分かるくらいにはわたしは熟している。
が、
他に女がいたなら話は別だ。

わたしはそろりそろりと人の波に紛れて男に近づく。息を止め一心に。

小花柄の淡い紫色の浴衣は、
昨年の今日この場所で着た浴衣だった。
傍らには男がいた。
わたしの顔を煽いだ団扇_。
ひゅうううう……………っ………
頭上で再びか細い鳴き声がした。悲鳴のように。

どおおおん……………

「おーっ」「すごーい、キレぇ~」
観衆がそれぞれに感嘆の声を挙げている。皆一様に空を見上げて。

__わたしは、用を済ませると夜空の花に見惚れた観衆からゆっくりと離れた。

男の一物に突き刺した刃は、ちゃんと根を断裁しただろうか。
ひゅうううう……っ、どおおおん……!
空に一段と大きな花が咲く。
轟音と共に女の悲鳴がし、わたしは掌の真っ赤な滑りをひとくち舐めた。

日記へのコメント

蒼井シリウスさま
コメントありがとうございます!
読んで下さったのですね、感激しました。

難しかったです(苦笑)
時間がかかりました。
私はどうも、後から枝葉をつけたがるようでして……。
付け足しては他を消し……を繰り返しました。


なるほど!オチも謎めいたほうがミステリアスで読み手の想像力を煽りますね。

拙い文章ですと、テクがないためどうしても明白に『こーなりましたよ!』と書いてしまいます。

タイトル・オチで結論を伝えておくという(笑)
分かり易いけれど、『ただの文章』になってしまうんですよねぇ。


難しいです汗

鍛錬ですね。。


[投稿者]日比野あるくさん [投稿日]2016-08-07 14:11:39
1000文字、どうだったでしょう?
すんなり書けた方でしょうか?
それとも私みたいに何時間もかかったでしょうか?(笑)

女の復習劇を動作描写なく、情景と心情だけで描いたことに妙があります。それがオチにもつながっています。
惜しむらくは最後の最後まで、女が何をしたのか読者に悟られないように、題名も情景的なものにした方が良かったのでは、と思いました。
私、オチ重視なので(笑)

面白い物語ありがとうございました。

[投稿者]蒼井シリウスさん [投稿日]2016-08-07 08:35:45

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