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「い・・・い、市ノ瀬さん！！た、大変です！！」

グイグイと俺の身体を音子が揺する。な、なんだなんだ！？
今日は日曜日だぞ！どうした、一体？
むくりと上体を起こす。音子はこの間買った、ネコの顔がプリントされたエプロンを身に着け、きゅっと髪を後ろに縛っている。いつもの朝ごはんを作るときの格好だ。

「市ノ瀬さん！！こ・・これ！！これ！」
「おちつけ、音子。もうお前も『市ノ瀬さん』だ！」

音子は俺のことを『直行さん』と呼ぶようになったが、こうしてびっくりしたり焦ったりすると、前の『市ノ瀬さん』に戻ることがある。なんか、こういうの、昔読んだ心理学の本で、ナントカ現象と名がついていた気がする。

俺の指摘に慌てふためいていた音子がピタッと止まり、顔が真っ赤っかになる。そのまま黙って、おでこをくりくりと俺の胸に押し付けてきた。

「そ、そうでした・・・。えっと・・あの・・」
なんだ、なんだ！？
しばらくクリクリし続けて、はっと気づいたように、

「違う！そんな事を言いたかったわけではなく！」
なんだ、用事があったのか？

音子がぐいっとスマホの画面を示してきた。まだ寝ぼけて焦点の合わない目をこすりこすり見てみると・・・えーとなになに？

え！？

俺の目も丸くなった。
☆☆☆

今日の朝食は音子担当。
鶏肉とカブのポトフ
ツナコーントースト
トマトとレタスを添えたミニオムレツ
コーヒー
だった。

相変わらず、おいしい。

「すっごいですね！直行さん」
「ん・・・確かに」
「私達の生活が！」
「ピックアップかー」

これは、直行さんのおかげです！みんなが、直行さんのいいところに気づいてしまった！
などと、音子は言うが、多分違う。

お前だよ。
運命に負けないで、頑張った、お前のストーリーがピックアップされたんだよ、と、俺は思った。

まあ、言わないけど。言わなくても、わかるだろ？

コーヒーを飲む。期せずしてだいぶ早く起きてしまった。予定にはないが、天気も良さそうなので、一緒に出かけるか？音子・・・。