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中村 心響さんの作者ニュース
片足の兵隊さん…
カツ、 カツ、 カツ…
畳の床に敷かれた布団の上であまりの蒸し暑さと嫌な寝苦しさでふと目が覚めた……
カツ、 カツ、 カツ…
柱の時計を見れば二時。
深夜を迎え
襖を隔てた廊下でそんな音が響いている
木と木がかち合う音
不規則ながらその音はだんだんとこの部屋に近付いている気がする──
カツ、カツ、カツ…
ピタッ……
奇妙な音がこの部屋の真ん前でピタリと止まった
…あし…
……あしが……
微かにそんな言葉が聞こえ、襖が静かにすぅっと開く。そしてバタンと大きなものが倒れた音がした
驚き確認してみようにも手足が動かない
唯一動く首だけを回し、左を向けば何か得体の知れぬ物がゆっくり…
ゆっくりと布団の直ぐ横をずるずると這いずっている
「…っ……」
掠れた声にならない悲鳴が漏れて冷や汗が一気に吹き出した
…ない……
どこにも…ない……
黒焦げになったボロボロの日本兵の軍服を着たそれは布団の周りを半周すると
足下でピタリと動きを止め、黒焦げの顔から飛び出す程に充血した眼を剥き出し何かを探す
…ない… ない…
あしが…あしがっ…
俺のあしがっ……
……あった…っ…
「──…っ!うわーっ…」
右足を掴まれ強い力に廊下まで一気に引きずられ
発狂したように大声で叫んだ
夢中でもがき、いったいどれだけの間、死に物狂いで手足を振り回しただろうか──
ぐったりとなって目が覚めた部屋はすっかり朝を迎えていた
夢か──
しかし嫌な夢を見た
寝汗で浴衣の襟がびしょ濡れだ
水を飲みに廊下に出ると板間にいくつもの傷がついていた──
カツ、カツ、カツ
カツ、カツ、カツ
「………」
そうか…あの音は松葉杖の音だ……
終戦70年を迎え、戦死した兵隊は今だこの世で己の体の一部を捜している……
もしかしたら…
次はあなたのところにも捜しにくるかもしれない
そうしたら…
あなたはどうしますか・・・