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中村 心響さんの作者ニュース
ある男の心の変化……パート①
(……っ…)
初めて目にした瞬間だった
この女だ──
俺は強くそう感じた
肌の色も言葉の訛りも多様な民が集まるこの商人の町で、
唯一飛び抜けて──
鼻が低い…
こんなに低い鼻の面構えは見たこともないっ…
驚きと興奮が瞬時にわいた…
まるで珍しい宝でも見つけた──そんな気分だった…
捜していたものがこんなに貴重な姿をしていたことに、俺は興奮が押さえられなかった
俺の血が騒ぐことを感じたのか
珍しい鼻をしたこのメスは、一瞬俺に怯えた表情を見せた。
逃がしてなるか…っ
強くそう気持ちが昂った
その感情はまるで、幼き頃に砂漠を駈けるフィネックの子を捕り逃がしたことを思い出させ、
だから俺はあの時咄嗟に叫んだ
「おい、見てみろっ!毛色の変わったメスがいるっ 網をかけろっ!──」
叫んだ俺を見て驚いたあの時の表情──
網に撒かれて狼狽える姿も無性に俺の中の何かを掻き立てた
もっと近くで見たい──
こんなに強く興味を惹かれたのは初めてだった──
抱き上げて間近で顔を覗けばやはり、その鼻の低さに目が止まった
こんなに低い鼻でどうやって息をしているんだ──
もう、自然に疑問が湧いていた……
この口を塞いだら
どう息をするんだろうか
窒息などしてしまわぬだろうか……
知りたかった
ただ知りたくて
しっかりと…
微かな吐息さえ漏らさぬように……
長い時をかけて
俺はこの小さな唇をじっくりと塞いでやった…
思った通りだった…
この鼻で息は出来ていなかった──
だから今こうして、
この珍しい毛色のメスは気を失なったのだ…
思った通りの結果に俺はひどく楽しくなって高笑いが止まらなかった
ああうるさい
太った小うるさい爺さんが何か叫んでる
喧しい──
これは手放してなるものか……
これはもう──
俺のものだ……
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