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KETSU OH!さんの作者ニュース
その他・春は宵…何処か外より…
陽は、今しがた沈んだにもかかわらず、どうしようもない日中の気だるさだけが、花への残り香となって、くすぶり続けている、そんな春の宵。
思い及びもしなかった突然の再会でもあろうか、通りすがりに呼び止められた男は、呆気にとられたまま、気付けば、女と家路を共にしていた。
道すがら女は、近況を尋ねるでもなく昔語りに終始し、男は男で、ひとつひとつ、記憶の糸をたぐり寄せるのに精一杯といった風に、調子外れに相槌を打つのみである。
男を自身の部屋に招きいれた後、二人で取り交わす笑顔は、あたかも澱が沈みきって澄んだ水の様に屈託がない。
二人がこうして静かに場所を共にする迄には、左様に、長い年月が必要であった。
「いつなんだろう…って。たとえ終わるにしても、いつ終わったんだろう…って。ずっと気になってたの。でも、良かった!」
途端に何もかもが明らかになった訳ではない事ぐらい、当の本人達でさえ、薄々感付いているのかもしれない。
かって、その女と男は、はたして一度でも出会った事があったのか。
もしくは、どんな巡りあわせによるものか、沈み切っていたはずの澱が、ふとした弾みで掻き乱され、陽炎の如く立ちのぼったのでもあろうか。
いつにも増して深くなりそうな、そんな春の宵には。