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KETSU OH!さんの作者ニュース
その他・女と男のnews
女は、この街で、ちゃちなニュースを売り歩いては、その日暮らしを続けている。
良くも悪くもたいした事など起こりそうにない、うらぶれたこの街の、一体何が気に入ったのか、何処から来たのか、皆目見当のつかない一人の男が、あちらこちらに姿を見せはじめて、かなりの日数が経つ。
退屈きわまりない街でも、男と女がいる限りは、誰それがくっついただの、別れただのと、枝葉を繁らせる噂話の楽しみがある。
我が身に降りかからないのであれば尚更の事、もつれにもつれた色恋沙汰は、あちらこちらで、その場かぎりの華を咲かせる。
素性の知れない男が、そんな退屈しのぎの恰好の拠り所となったのは言うまでもない。
取るに足らない、あかの他人の諍いにさえ、どうやって嗅ぎ付けたものか、口や手は出さないまでも、その場への一番乗りを必ず果たし、事の次第が自身に及んだ時にでさえ、責められて否定するでもなく、かといって肯定するでも無く、自分の、文字どうり一番乗りを楽しむ風であった。
我が身に降りかからない様にするには、何処から来たともしれない男は、それこそ打ってつけだったとも言える。
まさに誰もかれもが、男にある事ない事のすべてをぶちまけはじめ、ありとあらゆる今までの、積もりに積もった人々の退屈さ加減が、堰を切ってひとりの男に、怒号も歓喜も一緒くたになって流れ込んだ。
それ以来、男の行方は杳として知れない。もしくは、何処にでもいる、何処にでも現れる、そんな男だったのかもしれない。
またしても人々の、退屈でありながらも静かな日々が暫くは続き、一方女は、永い年月の間、この街で、ちゃちなニュースを売り歩いては、その日暮らしを続けている。