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KETSU OH!さんの作者ニュース
(初期の跡地 より)通りすがりの初期衝動
見も知らぬ、あかの他人から、いきなり声を掛けられた。何でも差し迫った重要事らしく、神妙な面持ちで協力を求められた。重ねて、確実な仕事である旨を強調し、ポケットから書類らしいものを取り出すと、恭しく広げて読み始めた。半ば呆れながら上の空でいると、すかさず喝を入れ、尚更勢い付いたものか、何やら満更でもない表情で、ますます大きく朗々と歌うような声は、明瞭でありながらも、ひたすらに意味は不明。不思議と聞いているうちに、腹の底から理屈抜きで響く気分にもなってくる。更には、如何にも尤もらしい道具を殊勝げに取り出すに至って、その仕事とやらは、一挙に真実味を帯びていくかにも思えた。それにしても、彼の揃えた道具は、余りに解りきって稚拙にさえ見える。そればかりか、一体これらが、道具なのか部品なのかさえ判別出来ていないと察するに充分なほど、彼の手付きも覚束ない。
突拍子もない馬鹿げた事を、何もかも受け入れて卒倒してしまいたくなる様な気分は、只でさえ出社時刻に遅れそうな、こんな日に限って訪れたりするものか。
その場を後にする、ものの数秒も経たない内、気のせいか先ほどより一層弾んだ調子で、再び誰かに、同じ話を持ち掛ける声が聞こえる。