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－彼女には既に許婚者がいた。しかし、彼女にひとめで心奪われた彼は、彼女を権力で奪った。

　彼は心に深い孤独を抱えていた。実の母ですら、彼を愛そうとはしなかった。－
　
　横恋慕によって、無理に殿様の側妾にされてしまった少女橘乃（きつの）。
　しかし、無垢な少女はやがて、藩主の寵愛を一身に集め、ときめく側室へとのぼりつめてゆく。
　そんな中で目覚めた肉欲と権力への魅力に囚われ、おそろしい謀（はかりごと）に拘わってゆく。

　略奪されるように側室とされた橘乃はいつしか心に果てしない闇を持つ藩主を愛するようになっていた。
　
－殿を殺そうとする者はたとえ、ご生母さまとて許しはせぬ。

　ついに実の息子を殺そうとした藩主の生母にひそかな復讐を誓う橘乃が立ち上がった。しかし、それが彼らの生命取りになるとは思いもせずに－。

　江戸時代末期、愛する男のために稀代の悪女、妖婦とそしられながらも、生命を賭けようとした少女の物語です。