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Cross roads
第1章 Cross road 1
「あれ、祥悟さんてご結婚されてました?」

会社で部下に話しかけられる。彼の視線は俺の左の薬指に嵌ったプラチナの指輪に止まっている。

部下ってのも気恥ずかしいから、本当は後輩、と表現したい。
…だけど。
俺、武井祥悟はこの会社の部長、になったのだ。

本当は前役職の課長だって、3年経ってようやく呼ばれ慣れてきたのに。
しかもうち2年は本社を離れてアメリカの現法に出向していたから、向こうでは単にショウゴ、とかMr.タケイ、と呼ばれてたし。

年末に帰ってきて正月休みが明けて、何かと慌ただしい期末を終えて、春の辞令が出たと思ったらいきなり部長って、突然すぎるでしょ。

ま、その器になれ、というのは仕方ないことだ。俺は、この会社の社長の一人息子だから。

俺にしたら自分で登れない高い木にポンって乗せられて梯子外された気しかしないけど、親父は俺の歳には常務で、ジイさんの片腕としてバリバリ働いてたらしいし。

ただ、社内では、ジュニアの呼称としてファーストネーム、てのは親父の時からの慣例みたいなもの。同姓なんてザラにいるから、社長は社長、息子は役職かファーストネームが多い。

部長なんて呼ばれ慣れない身としては、ファーストネームの方が気楽ではある。
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