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影に抱かれて
第18章 エピローグ
「――ノックしてるのは誰――お願いだから開けて頂戴――愛の神様に免じて――」
「愛の神様……」
その美しい言葉を口にすると、リュヌの胸は締め付けられた。
最期の瞬間に見たジャンの涙……驚きの表情。
それが頭から離れない。
自分にはもう、神を語る資格などないのだ……
リュヌの青い瞳からは涙が零れ、ポタポタと地面を濡らす。
ここで木の枝を使って、必死で文字を学んでいたあの頃が懐かしい……
あの頃、自分の心は……ささやかながらも夢や希望に溢れていたように思う。
そして夢は叶い、今の自分は文字だけでなく、経済のことだって法律のことだって知っている。そして愛も。
しかし……
「ごめん、母さん……僕には神様は見えないよ。もう……見えないんだ」
人は間違いを犯す生き物だと……ドゥルーはそう言っていた。
自分は間違いを犯してしまったのだろうか?
審判を下してくださる神の声ももうとっくに聞こえない。
涙をぬぐい、澄み渡った空を見上げるが……目が眩んだリュヌの瞳には何も映らなかった。