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影に抱かれて
第2章 月と太陽
「……じゃあ塔に行きたいな。また聖書の新しいお話が聞きたい」
もともと信心深かったリュヌだが、塔の上の祭壇の前でジュールに聖書を読み聞かせてもらううちにその教えに傾倒し、家令になるという夢の為だけではなく、聖書を自分で読むためにも勉学をする機会が欲しいと考えるようになっているのだった。
……ジュールが実は信仰心などあまり持っていないことに、この頃のリュヌは全く気付いていない。
「今日は塔に行かないの? 」
「んーあそこはすぐ見つかってしまうからね。母上が家庭教師に教えたんだ」
「えぇっ……また抜け出して来ちゃったの?! 」
ジュールがリュヌのもとに入り浸る度に、夫人から厳しく叱責されるのはリュヌなのだ。この間などは背中を鞭打たれ、しかもそのことは誰にも言わないようにと後から厳しく念を押されていた。
しかし、リュヌは夫人を恨んだりはしていなかった。
ジュールが一番大切な人間であることに変わりはなかったが、身寄りのない自分を育ててくれている夫妻にも恩義を感じ、いつか恩返しをしたいと思っていたからだ。鞭打たれるのだって、夫人が何かと自分に辛く当たるのだって、自分に何か非があるに違いない。