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影に抱かれて
第9章 待ち受けるもの
使用人が離れてしまった理由は、人望の厚かった伯爵の死の影響が大きかっただろう。
そしてリュヌはそこまで推察できなかったが、もともとヒステリックなところのある夫人が更に不安定な状態となり……今はジャンが屋敷の全てを支えている状況だった。
跡取りである筈のジュールは今、どうしているのか……。そしてなぜジャンはジュールの話題を避けているのか。
悪い病気でもしているかもしれないという、良くない想像も沸々と湧き上がってくる。
「ジュール……様は……お元気ですか?」
訊かずにはいられない。だって、その為に帰って来たのだから。
ジュールに会いたくて……ジュールのために。
「……お元気でいらっしゃる。またお会いできることもあるじゃろう。さあ、今日はこのまま休みなさい」
あの手紙の様子から様々な想像をしていたリュヌだったから、ジュールが元気だというのはホッとする情報だった。しかし、ジャンの物言いにはやはり何か含みがある気がする。
屋敷の裏口に回りそこから中に入ると、人払いでもされているかのように屋敷内は静まり返っていて他の使用人たちに会うことも無かった。一体どれほどの使用人が辞めてしまったのだろう。
もしかするとあの伯爵が大切にしていた薔薇園も荒れ果ててしまっているのだろうか。あとで庭園や、塔の方になら行っても問題ないだろうかと考えていると、その考えを察したのかジャンはリュヌにくぎを刺した。