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ドラスティックな恋をして
第5章 懐かしさの理由
吉本昌宏の姿かたちが相原に似ているわけではない。
あの、ああ言えばこう言う的なやり取りが似ていると感じたのだ。
相原の事を好きだったのかもしれないと、時間が経ってから思った事があった。
もしも、ちょっとでも歩み寄っていたら・・
形作ることなく消えていった恋を思い出し、
その面影を昌宏との会話の中で見つけたのかもしれない、と依子は視線をあげた。
このタイミングで・・
子供が巣立ち、夫は自分の世界を広げていき、そして自分もまた
自由すぎるほどの時間を手にした今の生活の中にぽっかりとあいた穴。
そこに落ちていくのはやはり自分の意志なのだろうか。
それとも、成り行きに任せていたら落ちてしまったという、
人のせいにできるのだろうか・・
電車が陸橋を渡る音が体に響く。
多摩川を渡ればもうすぐ駅だ。
駅に降り立った時には、夢みたいな戯言を胸の内で笑って
現実に向き合うかのようにスーパーの特売品を選りすぐる
いつもの自分に戻っているはずだ。
ドラスティックな恋なんて、自分にはやっぱり似合わない、と何度も頭の中で繰り返した。
だがその数が増えるたび、昌宏の存在が大きくなっていくと感じる。
夫がいて、子どももいて、ごくありふれた主婦だとわかっても
会うために連絡先を交換しようと平気で口にした男の存在が・・
大きくなる・・・