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僕の大事な眼鏡さん。
第1章 誰か好きな人はいますか?
店長はお冷やとおしぼりを出す。

 僕はそれを尻目に、テーブルのメニューを整えたり紙ナプキンを補充したりする。

「午後は大した食事は出さないので、いつもこんな感じですよ。あ、でももし何か食べたいものがありましたら作りますよ。」

「ありがとうございます。」

「いえいえ。お得意様ですから。」

 なんか、この二人…。いい感じになってないっすか?

 確かに店長は独身でカッコいいけど。

 僕の方が先に目をつけた…と、思う。

 眼鏡さんも、ニコニコ笑ってる。うっ、可愛いすぎ。

「あ、そうだ。これ、皆さんで食べて下さい。」

 ボストンバッグから、包まれた箱を出す。

「研修旅行先で買ったお土産です。よくよく考えたら、一つ多く買ってしまって。一人暮らしの私だと、量が多いので。」

 包みを見ると、温泉まんじゅうのようだ。

「うん。ありがとう。じゃあ、あとでみんなでいただきますね。秀太、裏に。」

 眼鏡さんに近づき、そのお土産を受けとる。

「…ありがとうございます。」

「いえ。いつも、すみません。お昼の忙しい時にカウンターにドンッて座ってしまって。邪魔ですよね?」

 うわぁ、眼鏡さんが僕に話しかけてきたよ。

 どうしよう。

 顔がひきつってる。

「い、いえ。あ、あの…。」

 どうしよう。別に何か考えがあって、声をかけたわけじゃないけど…。

「いつも、何の本を読んでるんですか?」

 しょうもない…。
 なんて、しょうもない質問だ。

「あ、今は純文学もの。」

 バッグから取り出して、表紙と作家を見せてくれた。

「テレビやラジオで紹介されたら、すぐ気になって。読み始めると止まらなくなっちゃうの。」

 そう言って、微笑む。

 あ、ああ。ヤバイ。どうしよう。

 もっと、眼鏡さんと話したい。眼鏡さんの事、知りたい。

「さて、食べたいもの決まりました?」

 店長の声に、はっと我にかえる。

「それじゃあ、この玉子サンドとサラダを。あと、アイスティーお願いします。」

「はい。少々、お待ちくださいね。」

 店長は手際よく、サンドウィッチを作り出す。

 暫くすると、また常連のお客さんが入ってくる。

「店長、コーヒーお願い。なんか、雨降りそうだよ。風も強いし。」

 窓の外を見ると夕闇の中、街路樹がかなり葉を落としている。
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