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【マスクド彼女・序】
第3章 一日目【彼女との戒律(ルール)】
背の高さの差異による、二十センチ弱の空間。
其処に音の無い二人の吐息が、目に見えず混ざっていった。
沈黙が時を蝕むことに耐え兼ね、それを先に破ったのは正直の方である。
「どうして……こんなこと、を?」
その往生際の悪さを――
「『質問』に答える義務――私には、ありませんから」
クスッ、と――唯が、笑った。
その言葉を発し、微笑を浮べた口元。
「――!」
それを備に見つめ――正直は新鮮な驚きを得る。
部屋の照明の光を柔らかに弾く――自然に艶めいた、唇に。
滑らかな顎のラインを彩る――至極、肌理の細やかな、素肌に。
奇怪なマスクを以って、敢えて彼女が隠そうとするもの。
しかしながら、その素顔は――きっと。
まだ見たことのない何かに、正直は言い様のない不可解な憧れを抱きつつあった。
「……ッ!?」
そっと両肩に置いた手に慄き、唯は身体をピクリと捩る。
おそらくマスクの中の瞳は既に、閉じられていたようだった。
その微かな揺らぎが止まるのを――待って。
正直は自らの顔をゆっくり、目的のその場所へと――近づけてゆく。