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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】

 それは、唯の小振りな胸が顕わとされようとした、一瞬の行動であった。

 それを受けて、唯はすぐ近くの正直の顔を――仰ぎ、問う。


「これは……どういう、つもりですか?」


 それに対し――


「どうもこうも、俺は――認めてないから」


 正直はいつになく真剣な表情で、唯を見据えた。


 唯の華奢な肩には、正直が身に着けていたシャツがかけられている。正直は寸前で、その裸身を覆い隠していたのである。



「そうまでして……見てはくれないのですね」



 唯のその言葉に、最早、正直を非難するまでの力は籠められていなかった。只、ひっそりと哀しげに、その音は二人だけの空間に鳴ってゆく。


「……」


 その横顔を見つめ、正直は深くそれを想う。


 彼女の人生をこんな風に狂わせたものは、一体なんだろう?


 こんなにも居た堪れない気持ちは、初めてだと感じた。唯はその言葉も行動も、全てにおいて今も謎だらけではあるが。


 過去が彼女を、苦しめていること――それは、察することができた。


 何も裸を見せようとする行為、それ自体から感じ取ったことではない。だが唯が意固地に思うから、正直もまたそれを必死拒んだ。


 そして恐らくは、彼女の裸は未だ誰の目にも触れていない筈であると、そうも思っている。

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