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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】
世間では今この時も、どれだけの男女が裸で互いを抱き合っていることだろう。
その意味では、何も可笑しくなく、別に妙でもなかった。
彼らは互いに十分に若く、エデンと称せられたこの場に今も二人きりだ。
だが、それは――そんなにも軽くなく、否、重いのものである――と、正直は判ずる。
「そもそも、このゲームがね」
「え……?」
正直が話し始め、唯は顔を上げそれを聞いた。
「ルールが公平じゃないんだ。だから、唯が罰を受ける必要なんてない」
と言い、正直は二人が駒を振り出した将棋盤の方を指差している。その後の正直の説明は、以下のようなものであった。
唯は駒の裏表ではなく、そこに記された文字の『黒』と『赤』で、その数を判別している。その結果は『黒5―赤3』で、正直の勝利と告げた。
だが今、二人の視線が注がれる将棋盤上にある駒の数は、その合計である『8』ではなくて『10』だった。では残りの二つの駒は何故、数えられてはいないのか。
「『王』と『玉』、それに『金』の駒には、その裏面に文字は記されていない」
正直はその訳を、その様に話した上で――
「つまり、公平じゃない。だから俺は、この勝負は無効だと主張させてもらうよ」
唯に向かって、そう告げるのだった。