この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
【マスクド彼女・序】
第5章 四日目・五日目【表側の景色と裏側の闇】
その時、背でドアが開いた。
「静音――帰っていたのか?」
「お兄様――」
兄である白木孝次郎(しらき こうじろう)は、妹の静音と十近くも歳が離れている。既に板について久しい濃紺スーツの上下は、その大柄な身体を鎧のように包んでいた。
「珍しいのですね。今日は余暇を――?」
「そんな筈なかろう。仕事の合間で、立ち寄ったまでだ。まだ学生のお前と、一緒にされては困るな」
「それは随分と、失礼いたしました」
「……」
兄の孝次郎は、投げやりのようにも見える、その妹の態度を気に掛ける。
「お前、こんな処で――何をしている?」
「別に……なにも」
「では、何故――こんなものを」
「あ……!」
手から写真立てを奪われ、静音が細やかに声を漏らした。
一方の孝次郎は、その写真をまじまじと眺め、あからさまに舌打ち。
「まだ、あったのか――顔を塗りつぶすくらいなら、捨ててしまえばよかろうに」
しかし、静音は――
「いいえ……捨てるわけには、参りません。何故なら――」
「んん?」
「あの子から顔を奪ったのは――他ならぬ、この私、なのですから……」
きゅっと唇を噛むようにして、その眼差しは何処か遠く――。