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【マスクド彼女・序】
第1章 プロローグ
此処に開始を告げる、一つの物語があった。
多くのケースで、そうであるのかもしれない。殊に恋愛的な要素を含むそれに於いては、そうだ。物語というものの始まりは、何時だって男女の出会いを発端とするもの。
そんな意味で言うのであれば、この物語もその多分に漏れるものではなかった。
だが、やや――違う。何処か尋常では、ない。
否、当然ながらこの世に、一つとして同じ物語がないとするにしても。それでも其処に漂う空気は、酷く張り詰めていて――とても異質なものであった。
それを只ならぬものと感じて、そこはかとなく不気味だったから……。
「……」
物語の主人公となる一人の青年は緊張も顕わにして、そのドアを前にするとゴクリと喉を鳴らした。
根底より過ちを繰り返そうしている、男と女。二人は、もうすぐ出会う。
この書き出しにより変に構えさせてしまったのなら、その点は改めたい。別に左程大層なものになる筈もなく、これは酷く矮小な物語である。
誰の為でもなく、取り留めもない。
そんな物語は――それでもこの瞬間より、何かを紡ぎだそうとしているのだった。