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【マスクド彼女・序】
第5章 四日目・五日目【表側の景色と裏側の闇】
寝苦しい時間を経て、それでも束の間の微睡の中に、正直はあった。
『お兄ちゃん――ありがとう』
それは、夏の日の夕暮――。
少女はそう言って、大きな瞳からポロポロと涙を零していた。
その胸には、小さな黒猫がしかっりと抱かれている。
ああ、そうだ……。あれは確か、高校に上がって初めての夏だったか……。
俺はあの子と一緒に、迷子の子猫を探して……。
『よかったね』
俺はそう言って、彼女の頭を撫でた。そして――
『うん』
コクリと頷いた彼女の――夕陽に照らされたその笑顔を、眩しく思っていた――。