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【マスクド彼女・序】
第2章 前日【楽園からの誘い】
だが、そうは言ってみても――それは、現時点に於ける最大の関心事ではなかった。
寧ろ気持ちの大半が他に在るからこそ、正直は怪しいと感じながらも何処か上の空である。だからこそ、心配事(金欠)と面倒事(面接)を、先に片づけたいとの心理が働いていいたのかもしれない。
「……」
乗車後二駅を過ぎようやく得た座席の車窓を通して、正直は沈み行く夕陽を眺めた。そうしていると、自然。既に考える事象は、其処へ移り変わっている。
なんで、新垣さんは俺を……?
その自問が彼女が『映画に誘った理由(わけ)』の一点で考えるならば、その実はきっととても呆気ないものであろう。
恐らくは、一緒に行く予定だった友人がドタキャンして――と、そんな程度のことだ。
しかしながら、それは単なる切っ掛けであると。少なくとも正直は、そう考えてみたくて……。
故に、らしからぬ微妙に遅い待ち合わせ時間も、「卒業」と口にした時の寂しげな横顔も。
正直に様々なことを想わせ、それでいて期待を抱かせようとするのだ。