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【マスクド彼女・序】
第2章 前日【楽園からの誘い】
 大体、当初より――この話には、かなりの量の『怪しさ』が漂っている。それは仄かに匂うのではなくて、プンプンと嗅覚を刺激するほどの強烈なものだった。

 それ故、彼女が示した『百万円』という金額も、更にその『怪しさ』を倍増する材料でしかない。

 正直とて「わーい、大金が入るぞ」と手放しに喜ぶほど、愚かではなかった。一体、何を求められているのか、それがバイトであるのかさえ疑問である。

 では何故、行くのか。正直すらその訳を、明確に見い出せないでいた。

 只――



『来てください――必ず。私――ずっと、待っていますから』



 それは、女が電話の最後で発した言葉。

 その声に滲む悲壮感と、何らかの複雑な想い。正直はそれが、妙に胸に支えて思えた。


 もし、俺が行かなかったら、彼女は消えてしまうのかもしれない……。


 その想いに真っ当な根拠など、ある筈もない。

 それでも、そう感じてしまったから。そう感じさせていたから。


 正直は今、顔すら知らない彼女に、出会おうとするのだ。


 何が起こるのか、わからない。不安だってある。だが裏腹に、僅な好奇心をその胸に……。 
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