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【マスクド彼女・序】
第2章 前日【楽園からの誘い】
「――!」
その一言に、ハッとする。我に戻った正直は、己の行為を恥じた。理由はどうあれ客観的に覗き見たのなら、この場面は女に乱暴を働く男の構図となろう。
そんな端的な想像にも増して、正直を揺るがしたものがあった。それは絞り出したような短い言葉から、初めて彼女の感情が滲み出ているような気がしていたから。
顔を覆う奇怪なマスクを暴かれることを、彼女は何よりも畏れているように思えた。それはもしかしたら、衣服を剥ぎ取られるより――ずっと。つまり彼女には、マスクで顔を隠す明確な理由が存在しているのではないか――と。
「あ、あの……」
「……」
見下ろしたマスクの表情は、何処か虚ろ。泣いているのかもしれないと、先程とは逆の意味において正直は焦る。
「ごめん……」
だから、そう詫びて。未だ何一つ根拠を得た訳ではないが、少なくとも正直はマスクからそっと手を放していた。