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第10章 それぞれの匂い

episode4

　学部は同じ

　情報はそれだけ

　名前もしらない

　歳も知らない

　好きな音楽も知らない

　好きな色は知っている

　いつも着ている水色の

　講義の教室で

　目立つそれを見つけると

　今日を実感できた

　見逃すなんて

　いやだから

　定位置最後列

　君は大抵前から六番目の右端

　講義なんて聞いちゃいない

　窓を見上げて頬杖ついて

　春なんて来なければいい

　いや

　そうじゃないか

　春が来る前に

　君がそれを脱ぐ前に

　許しを請おうか

　声をかけても

　よろしいですか