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残像
第9章 現の暮らし
サチと暮らして三年が過ぎた。

初めのうちこそお互い気を遣いすぎて心が痛むこともあったが、そのわだかまりも解けた。

サチが子を産み、市八と名付け、今は穏やかに暮らしている。

それなのに、未だに昔の夢を見ることがある。

何が起因しているのかは、わからぬ。

強いて言えば、サチを抱きたい。

それは、叶わぬ夢。

張り型で遊んだり、舌や指でサチの気を遣ったり、その程度しかできないのが、悔しかった。

人とは欲深なものだ、とサチは言った。
ひとつが満たされると次のひとつが欲しくなる。
それが満たされればまた次が。
それはまるで、穴の空いた桶で水を掬うように、掬っても掬っても一杯になることがないのだと。

そう言えば、市九郎も似たようなことを言った事があった。
人の欲は尽きないように出来ている。それを満たそうと求め続ける事が、生きるということなのだ、と…

ならば、己のこの欲は。

決して満たされる事のない、この願いはどうすれば昇華できるというのか…

八尋はそっと溜め息を捨てた。
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