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歪んだ鏡が割れる時
第4章 第四章
計画していた贅沢なディナーが、二人してカップ麺を啜る事になってしまった。

窓ガラスを姿見にして髪のみだれを整えていた茜が、「わぁ……」と感嘆の声を上げたのは、あの家に気付いたからだろう。

「亮ちゃん、あのお家凄いね」

「あぁ、俺も初めて見た時は驚いたよ」

「庭も広いし……、一体どんな人が住んでるんだろう」

通りの街灯と庭に設置されたいくつかの照明が、あの家の豪華さを周囲にひけらかしている。

俺はもう羨ましくも妬ましくもなく、ただの景色としてあの家を見ていた。

「夫婦二人だよ。ま、お金持ちの生活は、俺たちには到底理解出来ないよ」

「へー、あんなに大きな家に二人だけ?寂しくないかな」

俺が思ってもみなかった事を、茜の柔軟な心が思いやる。

「たしかに、……寂しいかもしれないね」

寂しさというのは、人の心を変えてしまうものらしい。たとえ恵まれた環境の中にいたとしても。






腕を組んで寄り添い、駅に向かって歩いた。
離れたくない気持ちは俺の方が強いかも知れない。
ときどき顔を見て微笑む茜に、これまでとは違った色気を感じて戸惑う俺。

「新宿まで送るよ」

「無理しないでいいよ。帰りは亮ちゃん一人になっちゃうんだから」

「俺、なんか吹っ切れた気がするんだ」

「え、一人で電車に乗る自信あるの?」

見上げてくるつぶらな瞳が可愛すぎて、冷静でいられなくなりそうだ。
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